「食後の歯磨きは30分後」説の間違いを検証する

2018年12月27日 虫歯

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「食後の歯磨きのタイミング」は時間的にいつがいいのでしょうか?食後30分間は磨かない方がいいのので」しょうか。それとも食後30分以内に磨くべきでしょうか。
週刊誌やネットニュースでは、「食後の歯磨きは30分間行うな」などと間違った健康情報が散乱しており、テレビ放送という権威によって一般の人は「歯磨きをいつのタイミングで行なえば効果的か」について、間違った知識を得てしまいます。

残念ながら2018年の民放テレビで歯磨きについて「今の常識では、食後すぐに歯磨きをするのは良くないとされている。」という間違った内容が放送されてしまいました

歯科分野の専門教育を受けた私は、「科学を無視した民間療法によって歯の健康を害してしまう人たちがいる」ことは、とても残念なことだと思っています。

どうかみなさん、歯の事は歯科医師、歯科衛生士に聞いて下さい。

ネットニュースや週刊誌の「間違った記事を書く医療ライター」の暴走も放置できませんので、虫歯予防の専門家である歯科医師:大友孝信が、これらの誤解を解いていこうと思います。

人気テレビ番組が「食後30分以上たってから歯磨きするのが良い」と言ってしまった

この番組のコンセプトは、「視聴者の既成概念を覆し、驚かせる」という事だと思いますが、ちょっと暴走してしまったようですね。放送作家は、意図的に間違い情報を流したのではないと思いますが、結果として間違った概念である「食べたらすぐに歯磨きは間違っている」つまり、「食後30分以上経ってから歯磨きをするのが良い」という内容の番組構成でした。放送後、google検索結果を見ると視聴者の混乱の様子がうかがえます。

 

「歯科医にウソを教えられた」と多くの日本人が感じてしまった可能性あり!

放送あとから、ネット検索は、「食後の歯磨き時間」、「食後の歯磨き いつ」、「食後の歯磨き タイミング」、「食後の歯磨き30分後」といった検索キーワードが多く出現しました。

 

テレビや一部マスコミのいう「食後30分は歯を磨くな!」は間違いだった

「食後30分は歯を磨くな」は、誤った情報です。正解を言うと、科学的には「食後20分以内に歯を磨くのが良い」のです。歯科医は世界共通の科学的根拠に基づき世界中の歯学部で同じ教育をしています。「日本だけガラパゴス化して変な指導をしている」という記事も間違いです。

科学は、進歩するものですが、進歩とは前に進むことです。逆戻りはしません。科学は時代の流行で逆戻りしたり、急に違う方向に曲がったりすることはないのです。そこに留まるか、もしくは前に進むかです。飲食後、虫歯菌は増え続け歯の表面を酸性にします。この酸のピークが20分後です。食後20分が最も脱灰が起きやすい時間帯です。この前に歯の表面のプラークを落とすことが最も良いというのが、科学的検証の結果です。これは、ステファンカーブで説明できます。

今までの数十年間、歴代の歯科医師や歯科衛生士たちが必死になって「食べたら20分以内に歯を磨きましょう」と指導してきました。これが浸透し日本の12歳児の虫歯罹患率は、飛躍的に下がりました。指導は間違っていなかったのです。

食後20分以内に歯を磨きましょうという指導に使われる税金

「食後20分以内に歯を磨こう」という指導は歯科専門家たちの仕事でした。
国は、歯科医師、歯科衛生士にこの指導をさせ、正しい健康法の普及に努めました。
歯科を受診した患者さんの明細書を見ると「指導料」を支払ったのが分かると思います。この歯磨き指導には、国民皆保険の保険料、税金も使われているのです。

国を挙げて指導してきて、その結果も出てきたというのに、人気テレビ番組で、「それは、間違った常識であり、今はそう考えられていない」と断言してしまったのですから、残念ながら今後、日本人の健康被害が起こることが懸念されます。

なぜ、テレビ番組制作側が「30分は歯を磨くな」といった情報を発信したのか

放送作家は「嘘をつき視聴者を驚かせよう」と思っていないはずです。

間違った理由は、「論文の読み間違い」です。基礎知識がない人が論文を読んで「早とちり」したのでしょう。「酸蝕歯の論文」を読んで「虫歯の論文」と勘違いしたのです。

酸蝕歯は、虫歯と全く違う病態ですが、症状は虫歯に似ています。この区別がつかない医療ライターや放送作家が構成した内容なのです。
酸蝕歯についての説明はこちら→リンク

なお、たとえ炭酸ドリンクなどの酸性飲食物を飲んだとしても、その後30分間は歯磨きをすべきでないということの確認は一切できていません。これは完全なる医療ライターによる創作です。

「食後30分は歯を磨くなという説は間違い!」と日本の歯科界の権威が明言した

日本の子供たちの虫歯を減らした団体のひとつが「一般社団法人日本学校歯科医会
」です。わかりやすく言うと全国の学校の歯科検診を行う歯科医師の団体です。

この団体が虫歯予防の専門家集団が正式に見解をを発信しました。

結論として、「下記学会の見解にも基づき、食後に時間を空けずに歯みがきをする習慣づくりを推奨」と言っています。

 

 

虫歯予防のための歯磨きはステファンカーブで説明

食後には徐々に歯の表面が酸性になっていきます。もっとも酸性度が高くなり、最も歯が溶けるのは食後20分後です。これを分かりやすく説明したのはステファンカーブです。
脱灰と再石灰化のページで説明していますが、食後20分以内の歯磨きが有効という事が分かります。

それに対して、「30分は歯を磨くべきではない」と間違い情報を発信した医療ライターにも言い分はあります。それを示す論文を見かけたのです。しかし、これは「虫歯の論文」でなく、「酸蝕歯の論文」なのです。

あくまでも実験室での実験結果でしかありませんが、「酸性炭酸飲料に歯の象牙質の試験片を数十秒浸したあとで、口腔内中に戻し、その後の歯磨き開始時間のタイミングの違いによる酸の浸透を調べた論文なのです。ちなみに、この論文のどこを読んでも「30分は歯を磨かない方が良い」とは書かれていません。

 

まとめ

「食後の歯磨きは30分以内にしてはいけない」というのは間違った情報だと明言します。マスコミは悪気があったのでなく、間違ってしまったというのが真相です。自然科学の減少は逆戻りしません。各学会の見解を紹介すれば、以下の通りです。

日本小児歯科学会
結論としては、通常の食事の時は早めに歯みがきをして歯垢とその中の細菌を取り除いて脱灰を防ぐことの方が重要です。

日本日本歯科保存学会
食後の歯磨きについては、歯のう蝕(ムシ歯)予防の見地から、 これまで一般的に推奨されてきた通り、食後の早い時間内に行なう ことをお薦めします。

日本口腔衛生学会
ブラッシングの目的はプラークの除去、すなわち酸を産生する細菌を取り除くとともにその原料となる 糖質を取り除くことです。ブラッシングを怠ると、歯垢中の細菌によって糖質が分解され酸が産生され て、歯が溶けだす脱灰が始まります。したがって、食後のブラッシングは、これまで通り、齲蝕の予防に有用と言えます。

今回の「食後に歯を磨くな!」と騒いだマスコミの暴走のようなことは、今後も続きます。情報が散乱してている時代からこそ、歯科医療に関する情報は歯科医師にお任せ下さい。歯科医師は人生をかけてこの分野で勉強していいます。皆様が、歯で悩まずに平穏に暮らしていけるように我々歯科医師が今後も頑張っていきます。

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