重曹で歯が白くなる?それはホワイトニングではありません
お掃除に使えて、シルバーの黒ずみも取れる重曹
最近、インターネットなどである歯のウワサが出回っています。それは「重曹」を歯のケアに使うというもの。「重曹で歯磨きをするときれいになる!」とか、「重曹でお金をかけずにホワイトニングができる!」などと話題になっているようです。でも、恐らくこの方法をおすすめする歯科医は、なかなかいないのではないでしょうか。
重曹というと、お掃除に使われている方の話をよく聞きます。水にとけにくい重曹はクレンザーのような働きをして汚れをかき出し、油汚れにも化学反応をして落とすことができるのだとか。これは昔から多くの方が実践されて成功している方法ですから、日本の昔ながらの知恵として実践される分には何の問題もないと思います。
酸化して黒ずんでしまったシルバーのアクセサリーをきれいにする方法としても、重曹が使われているのを見たことがあります。重曹をお湯に溶かしたところにアルミホイルも入れて化学反応を起こし、そこへシルバーを入れると一緒に反応してくすみがとれるというものです。確かにくすんだシルバーがピカピカになっていましたから、こちらも試してみる価値はあると思います。
ただし歯科医としては、残念ながら歯にはおすすめしません。流し台の水垢をクレンザーでゴシゴシ落とすのと同じようなことを、もしも歯にそのまま応用したら。単純に考えても、あまり歯に良さそうではありませんよね。もしかすると一見きれいに汚れが落ちたように見えるかもしれませんが、拡大してみるとそこにはたくさんの小さな傷が……。そんな事態も十分想像できます。
その方法、虫歯になる原因をつくっているかもしれません
たとえ流し台を重曹で磨いて多少の傷がついても、見た目にわからなければそんなに問題ではでしょう。ただし、それが歯となれば問題は深刻です。歯は「エナメル質」と「象牙質」と「歯髄」という3つの層からできていますが、虫歯は歯の表面のエナメル質がダメージを受けるところから始まっていくのです。
このエナメル質は人体で最も固い部分だと言われていますが、歯ブラシで強く磨き過ぎたり、固い食べ物を食べたりするだけでも小さなミクロの傷ができてしまいます。またヨーグルトなどの酸性の食べ物や、虫歯菌によっても溶かされてしまいます。そうして、知らないうちに毎日ダメージにさらされているわけです。もしそのダメージが象牙質や歯髄まで進んでいけば、ひどい虫歯となってしまいます。
そんなふうにダメージにさらされながらも私たちが虫歯もできずに健康でいられるのは、エナメル質についてしまった傷を修復していく「歯の再石灰化」が行われているからです。軽いダメージであれば、唾液が力を発揮してそれを修復してしまうのです。そのためには正しい歯ブラシで歯を溶かす要因をていねいに洗い流し、唾液で修復する時間を作ってあげることがポイントとなります。傷をつけてそれを邪魔している場合ではありません。
ホワイトニングは単なる汚れ落としとは違います
「重曹を使ったお手軽ホワイトニング!」というネット情報も私は問題視しています。そもそもホワイトニングとは、単なる汚れ落としではありません。ホワイトニングについてはまた改めて詳しく説明したいと思いますが、歯科医院で行っているホワイトニングは歯の内側に働きかけるものであり、ただ表面を磨く類のものではないのです。
私がインターネットで散見したところでは、「重曹のホワイトニング」にはレモン汁などを使ったりするようです。歯科医としての意見を言わせていただくと、レモンは酸性ですから、歯のエナメル質を溶かします。それを重曹に混ぜて歯に塗り、時間をおく……。せっかくの健康な歯を溶かし、自ら虫歯をつくるようなものです。それはもう自殺行為と言っても過言ではないでしょう。
重曹には天然素材のイメージがあるようで、「重曹で歯のケア」というとなんだかナチュラルでオーガニックな響きがして、自然派化粧品などを好まれる方には魅力的に聞こえるのかもしれません。ただ、私はやはり歯科医として、この方法はおすすめしません。歯のしくみや正しいケアの方法を知って、健康な歯を守っていきましょう。
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