待時埋入は信頼性が高いと言われる理由!抜歯即時埋入は慎重に…
基本的には歯肉が傷を塞ぎ、骨が再生して傷がしっかり治った状態からインプラント埋入をするのが、安全性や確実性が高まります。抜歯により歯を失った直後は血のかたまりで傷は塞がれているものの、骨は欠損しており、歯肉には穴が開いた状態です。この段階ではまだ傷は治っていませんね。
傷がしっかり治ってからインプラント埋入する方法を「しっかり待つ方法」という意味で、「待時埋入」といいます。それに対して「抜歯即時埋入」という方法もありますが、今回は「待時埋入は信頼性は高いと言われる理由」を解説します。
抜歯後すぐにインプラント体を埋入することは可能なのでしょうか?
確かに抜歯後即時インプラント埋入といって抜歯後すぐに埋入する方法もあります。しかし、この方法は、慎重にケースを選ばないといけません。この方法が向いているケースと向いていないケースの振り分けを間違ってはいけません。抜歯即時埋入が向いているケースについては、抜歯即時埋入のページで説明しますが、ここでは、多くの方に向いている方法である「抜歯即時埋入が向いていないケース」について説明します。
この「待時間埋入」ですが、抜歯後の骨の回復を待ってから、インプラント埋入手術を行なうという一般的な方法です。どれくらい治癒を待つかというと、基本的には抜歯後4~6カ月間ほどです。この期間は患部の状況によって変わりますが、健康な骨のある所にインプラント埋入をおこなう方が成功率の向上につながるのです。
待時埋入が向いているケースの患者さんが、即時埋入を希望する場合がありますので、メリット、デメリットを理解して頂き、患者さんの希望と患部の状況とでどちらにするかを決める事になります。
しかし、即時埋入よりも待時埋入を患者にすすめする歯科医の方が多いと思います。それは何故でしょうか?ここで、「多くの歯科医が歯即時埋入には慎重になっている理由」を3つ示したいと思います。
抜歯即時埋入には慎重になるべき3つの理由
理由1;インプラント体と骨との初期固定が難しいため
ほとんどのケースで、抜いた歯の直径よりもインプラントの直径の方が細いのです。つまり、まだ抜歯窩に骨が再生されていない状態での埋入は、インプラント体が骨にしっかりと初期固定されずに動いてしまう事もあります。初期固定できずに動く状況でのインプラント埋入では、失敗のリスクが増えてしまいます。
失敗となる可能性が高いなら、最初からオススメしません。もし、骨とインプラントが結合しなければ、インプラント体を除去してから、治癒を待ち、骨の再生を待ってから再埋入になってしまいます。そうなると抜歯即時埋入を選んだばかりに治療期間が延びてしまうという皮肉な結果を招いてしまいます。
ただし、条件が合えば、抜歯即時埋入で十分な初期固定を得ることができますので、自分はどちらが向いているかは、信頼できる歯科医診断結果を聞いたら分かるのですが、このあたりは抜歯即時埋入のページで説明させて頂きます。
理由2;骨の吸収によって埋入する深さを決めるため
抜歯をしたことによって歯を支えるための役目を終えた歯槽骨は数カ月かけて吸収します。
骨が溶けて減ってしまう量には、個人差があります。平均値を頼りに「これくらいの位置に骨が落ち着くだろう」と予想して、その高さにインプラント即時埋入をしても予想以上に骨がやせてしまう人もいるわけです。もし、そうなれば「埋入深度が浅すぎた」という悪い結果を起こしてしまいます。
これを防ぐための一つの方法として骨の吸収がある程度収まり、最終的に安定する骨の高さが確定してからインプラントを埋入する方法です。これが待時埋入です。
インプラント即時埋入は、骨の吸収量の予想が難しいという欠点があるのです。この写真は、歯を抜いた直後と数か月後の骨の変化を示したレントゲン写真です。抜歯直後よりも骨の高さが減っているのがわかります。同時に骨の幅も減っています。
状態の悪い歯を抜歯してインプラントにすることになった患者の抜歯前レントゲン写真です。
抜歯後2カ月経過したレントゲン写真です。抜歯窩には骨が新しく作られ始めており、白く濁って映っています。若く柔らかい骨と依然からある骨も残っています。この後で骨の形態は変化していきます。
こちらは抜歯後6カ月が経過した抜歯窩のレントゲン写真です。まだ柔らかかった新しい骨は幅や高さが吸収されながら固さを増していきます。同時に以前からあった骨は無くなり形態の変化も済みましたので、形が安定した状態です。
この頃になると安心してインプラントを埋入できる骨の固さになります。骨の治癒待ち期間には他の歯の虫歯治療などを行い効率よく治療を進めていく事ができます。
こちらは抜歯数日後の写真です。抜歯後数週間で抜歯窩は、完全な歯肉で塞がります。その後、時間をかけて骨も再生し治癒していきます。
こちらは抜歯後数カ月が経過し、抜歯窩が完全に治癒した写真です。抜歯数日後の写真と比較すると頬舌的(横幅的)に顎堤吸収されているのがわかります。
理由3;抜歯窩に細菌が潜んでいる可能性を考慮する
重度の歯周病患者の口腔内には、通常の人よりも多くの歯周病菌が生息しています。この多数の歯周病菌が生息する歯周組織に抜歯即時埋入をした場合、細菌がインプラント周囲に感染することが心配です。 インプラント治療をしたからには長持ちさせたいわけですから、インプラント周囲炎の原因の一つといわれる細菌感染を無視するわけにはいきませんね。
そこで、考えられるのは、インプラントをする前に歯周病を直してしまおうと考えるのが普通です。重度の歯周病の治療法は、抜歯となりますが、歯が無くなれば歯周病菌はすみかを奪われ、歯周病は治ります。
以前は、無歯顎患者に歯周病菌はいないと考えられていましたが、最近の研究では、残念ながら「歯を抜いて無歯顎になっても歯周病菌はまた増えてくる」という事がわかりましたが、目で見える菌の塊があった重度の歯周病の口腔内と、検証の結果どうにか検出できる菌がいる無歯顎の比較では、細菌の少ない後者の方が、清潔な環境といえますね。手術室は清潔な環境で行なう方が良いように、清潔な口腔内でインプラント手術をしたほうが良いですよね。
ただし、今の話は、「全顎的な重度の歯周病についての考え方」です重度の歯周病でない全顎的な抜歯即時インプラント埋入や歯周病でない口腔内の部分的な抜歯即時インプラント埋入を否定するものではありません。
まとめ
インプラントをしっかり埋入する時、そこにはしっかりとした骨がなければなりません。
しっかりと下土台があっての家つくりと一緒ですね。医療がいくら進歩しても人間の治癒再生能力とスピードは変化しませんからしっかりと治癒を待ってあげることが大切です。
明確な理由もわからないまま、何カ月も治癒を待つのはつらいことですが、理由がわかった今、しっかり治癒待ち使用という気になっていただけたのではないでしょうか…。
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