歯が動くメカニズムと矯正装置の仕組み
悪かった歯並びを理想的な歯並びに治すのが矯正治療ですが、治療をすれば歯が動くのはなぜでしょうか?治療をしなければ、毎日の食生活で食物を噛んでもビクとも動かない歯なのに、歯医者が行う矯正治療によって移動するというのは不思議ですよね。
ここでは、歯が動く仕組みを知りたいという一般の方にわかりやすく、歯が動くメカニズムを説明していきたいと思います。
目次
どうやって歯を動かすのか、歯が動く仕組みとは?
まず、実際には噛んでいる時に歯は微妙に揺れていることを知っていますか。自身では気が付かない程度に歯は動いています。食べ物を噛むと噛み心地を感じますが、これは歯が揺れ動いているのを感じているのですが、歯の動きを感じる場所は歯根膜です。歯槽骨(歯を支えている骨)と歯の間に介在しています。この歯根膜にある感覚器で微妙な歯の揺れを感じるのです。さらに歯根膜は、歯と骨をつなぐ役割を持っていますし、噛む力が顎骨にダイレクトに伝わらないようなクッションの役割もします。
この歯根膜の機能が、矯正で歯を動かす「カギ」となるのです。
歯根膜があるから歯が動く
矯正治療で歯が動くメカニズムは、歯根膜の働きにあります。歯根膜には、一定の幅を維持しようとする働きがあり、そのためなら骨を溶かしたり造ったりもするのです。
この不思議な生体のルールを利用して、歯に一定方向に持続的な力を加え続けると、その進行方向側の収縮した歯根膜は一定の幅を取り戻そうとし圧迫帯となって、ここの骨を溶かします。一方で反対側の引き伸ばされた牽引側の歯根膜は一定の幅を維持するために歯根膜と歯槽骨の間の空隙には新た骨が出来てきます。次に歯を動かすための「骨を溶かすメカニズム」と「骨が出来るメカニズム」を説明します。
歯が動くメカニズム
ワイヤーの弾力やゴムが縮む力を利用して歯に動かす力を加えた場合に何が起こるか細胞レベルで何が起こるかという歯が動くメカニズムの話です。
下の図で青く描いた破骨細胞のある方が、加えられた力によって圧迫されている側です。
こちらが骨の溶ける側です。破骨細胞とは、簡単に言うと骨を溶かす役目をもった破骨細胞が細胞です。矯正力が加わるとこれが活動を始めます。
逆に骨を作る側では、新たな骨を作る役目をもった骨芽細胞が活動して骨を作っていきます。緑色で描いた骨芽細胞は、骨を作る細胞です。
こうして作られた骨は、数週間かけて徐々に硬くなっていき、最後には歯を固定させる丈夫な骨になります。こうして一定の幅を維持しようとする歯根膜の性質によって骨が溶かされたり、骨が造られたりしながら歯は顎骨の中を移動していくのです。
なぜ破骨細胞が出てくるのか
破骨細胞やマクロファージの働きで、骨を溶かしてしまうなら、破骨細胞が無秩序に活動されてしまったら、人間の体は大変な事になりますが、そのような心配はしないで下さい。歯科矯正治療の場合に歯を動かす「力」を加えたときに出現してくるだけです。力を加えられた圧迫側の血管を見てみましょう。図で言えば、歯の左側です。
左側の圧迫側の血管は潰されて、血流が悪くなります。そうなると骨を維持する栄養が届かなくなっていますね。歯根膜に接している部分の骨は、歯根膜にある血管から栄養をもらっているからです。
そうなると、細胞は生きていけず、硝子様変性(しょうしようへんせい)がおこり、破骨細胞が出てきて「骨の吸収」が起こります。次は歯の右側、骨が出来る方の説明をします。
「牽引側」骨が出来る側の反応
上図の右側は牽引側といって、引っ張られる側ですね。ここの歯根膜は引っ張られて血管が伸びます。歯と骨の隙間は広がり、血流が良くなります栄養豊富なので、細胞の代謝が良くなります。歯根膜の血管が栄養を運んでいる細胞に多くの栄養が供給されます。こうして骨芽細胞、セメント芽細胞、線維芽細胞などが活性化して新しい骨が出来てきます。このような圧迫側と牽引側の骨改造が同時に起こることでの歯は移動して行くのです。
歯科矯正ではが動く速さ
歯の移動の速さは、歯を動かす方向や歯根の状態、骨の状態によって変わりますが、おおむね1ヶ月で0.2mm~1mmです。歯を引っ張りだす方向には最も早く、大きく動きます。歯根が1本である前歯などを歯軸中心に回転させる場合も比較的早く動きます。骨の吸収を待たなくても良いからです。
骨が吸収することで歯が動くスペースが生まれるのですから、歯根を横に平行移動させるのには時間がかかりますし、何よりも難しいのは圧下といって歯根を根尖方向に向かって動かす場合です。
矯正歯科ではこのような「骨の吸収」と「骨の添加」のメカニズムを利用して歯を移動させるのです。
歯列矯正の特性と注意点
歯列矯正には治療の特性上、いくつかの注意点があります。歯列矯正治療をうけるときには、治療の特性と注意事項についてしっかり理解しておく必要があるのです。
1;一気に大きく歯の移動をすることは出来ない
歯に加える力が強いほど歯の移動距離やスピードが上がるわけではありません。歯列矯正治療による歯の移動スピードは、最適な矯正力の場合、1日当りほぼ0.1mmと言われており、歯は少しずつ時間をかけて移動していくのがさせるのが基本です。一気に強い力を加えると偶発症が出る可能性が高まります。歯根が短くなってしまったり、歯肉の退縮が起こったりする可能性です。
2;一定方向に一定の矯正力を加えること
ずっと同じ方向(移動したい方向)に矯正力を加えることで骨が溶けたり造られたりするため、一定の方向に矯正力を加え続けることが大切です。また、最適な矯正力の大きさは決まっており、強制力が大きすぎては歯に負担がかかってしまいますし、弱すぎる力では、歯根膜は圧迫されるのに骨は溶けず、歯が動くことはありません。適正な力を加えた場合は臨床的に次のような状態になります。
☑ 矯正力で働かしている歯に自覚的な痛みがない
☑ 歯を叩いても(打診)著しい痛みを感じない
☑ 歯のぐらつき(動揺)が大きくない
☑ 歯の移動が、治療方針通りに変化しているのが見てわかる
☑ レントゲン診査で、歯根膜や周囲組織に病的変化がない
このような状態を保つ最適な力を歯に加えていきます。
3;治療の中断は原則できません
基本的に治療期間中は治療を途中で中断することはできません。
歯列矯正治療の途中で矯正器具を外してしまった場合には、歯は元の位置に戻ろうとします。せっかく時間をかけて動かしてきた努力が無駄になってしまう可能性があるのです。
歯列矯正治療を始めるときには、最後まで治療をうける覚悟をしっかりと持つ必要があります。
4;しっかりと保定する必要がある
理想的な歯並びになるように歯を移動していく矯正治療を「動的矯正治療」と言いますが、実は歯列矯正とは、この動的矯正治療だけではないのです。理想的な歯列に歯が並んだ後には、その位置に歯を固定する必要性があります。それが「静的矯正治療」です。「保定」とも言い、矯正治療において必須な治療になります。矯正医歯科医の指示を守って下さいね。
まとめ
歯科矯正治療は、科学的検証が十分に行われた歯科矯正治療学という学問に基づいて行われていますので、矯正歯科医の指示をしっかりと守って下さい。自身の都合で、勝手に矯正装置を外してしまったり、ゴムをかける時間を指示通りに行わなかったりする行動は、治療の成功を邪魔します。繰り返します。「矯正歯科医の指示を守ること。」これが矯正治療成功ための基本事項です。
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